ゲイな彼と札束

マモルの表情はハッキリと困惑を表している。

今にも「頭でも打ったの?」などとふざけたことを聞いてきそうだ。

そんな言葉を聞くのは癪で、マモルが何か言う前にあたしから口を開いた。

「ビックリさせて悪かったな。体も温まったし、そろそろ洗えば?」

「……う、うん」

背中を向けてやると、マモルは素直に浴槽から出て行った。

やけに湯量が少ない湯船。

腰を落として肩まで浸かり、シャンプーをしているマモルを眺めながら、密かに決心を固める。

マモルが眠っている間に、この家を出よう。

出て行くと宣言すれば、マモルはきっとあたしを引き止める。

調査とやらも入って、あたしが協力するべきイベントは終わった。

マモルにとってあたしなんて、もういてもいなくてもいいはずだ。

でも、そう思っていたとしても、マモルはきっとそうは言わない。

マモルが好きだ。

マモルが欲しい。

でも、あたしが女である限り、マモルがあたしを愛することはない。

現に、ここまでしてもダメだった。

こんな気持ちを引きずってまでここにいるのは堪えられない。

マモルは優しい。

でも、今までの男たちとは違う形であたしを傷つける。

あたしを殴る親父はもういない。

これを機に、一度捨てたあたしの故郷を、歴史を、友人を、取り戻そう……。

風呂を出ると、ちょうど洗濯が終わった。

あたしはその乾いた服を、こっそりいつもより小さくたたんだ。




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