ゲイな彼と札束
色白で華奢。
黒いサラサラヘアー。
細いタレ目に薄い唇。
柔らかい笑顔と声。
無償の優しさ。
300万円。
たったの一ヶ月間だ。
考えてみれば、タケシより一緒にいた時間はずっと短い。
背中の鳳凰を彫った男よりも。
バッグをくれた男よりも。
しかし、誰よりも信頼できた。
一緒にいて安心できた。
あたしはこの一ヶ月、確かに幸せだった。
マモルと出会った日の膝の傷は、かさぶたが剥がれて跡だけを残している。
縦に細長い溝が数本。
まるで轍のよう。
これからもこの傷を見るたびに、あたしはきっとマモルを思い出しては切ない思いに浸るのだろう。
窓にギラギラと朝日が射し始めた。
電車は小気味良い音を立ててどんどん進む。
中野の街は、もう見えない。