ゲイな彼と札束
高木のオッサンは好物の芋焼酎を飲み干し、グラスを置いてあたしに差し出す。
「哀愁って、あたしそんなに暗そう?」
新しく水割りを作りながら尋ねると、オッサンは笑った。
「暗いとは違うなぁ。何ち言えばいいやろか。過去に色々あったっちゅーオーラを醸し出しちょる」
高木のオッサンはいつも、酔っぱらいのくせに結構鋭いことを言う。
それがあたしに向いたのはこれが初めてで、あたしは少し動揺した。
それでも笑顔のまま水割りを作り、水滴を拭ってコースターに乗せた。
「色々って何?」
「俺が聞きたいわ。何があったん?」
「んー、最近なら、失恋やろか」
「はっはっは、失恋か。酷い振られ方したんか?」
「そうかもねぇ。あ、高木さん。失恋ソング歌ってよ」
無理矢理カラオケの本を押しつけると、オッサンは嬉しそうにリクエストに応えてくれる。
あたしはオッサンの失恋ソングを聞きながら、少し冷めた気持ちになった。
歌詞は全く響いてこない。
ゲイに振られた女のバラードを歌う歌手がいたら、あたしはすぐにファンになると思う。