ゲイな彼と札束
バイトは毎週日曜日が休みだ。
午後から街へ繰り出し、軽く買い物などをする。
街といっても、この土地に東京のような繁華街はない。
田舎特有のダサいアーケード街で必要な日用品や食料品などを調達するだけだ。
夜勤めだと、日を浴びる機会が極端に少ない。
地元に戻ったとはいえ、今はもう友達も彼氏もいないから、誰も連れだしてくれないし。
休みの日にこうして出かけるのは、たまには日を浴びないとダメになると思ったからだ。
普段は立ち入らない通りに入ってみると、小さなアクセサリー屋があった。
窓も扉も黒いスモークで隠されており、怪しさ満点。
ここでふと中学時代の記憶が蘇った。
「俺、街のシルバー屋で働いちょんよ」
族の先輩がそう言っていた気がする。
地元に帰ってしばらく経つが、昔の仲間には誰ひとり再会できていない。
もしかしたら、と期待して、おそるおそる店のドアを開けてみた。
「いらっしゃいませー」
若い男の声。
だけど聞こえたのは、その先輩の声ではなかった。
知らない声でもなかった。