ゲイな彼と札束

そう言ったヒロキはカウンターの奥にある椅子に座り、だらしない態勢でタバコに火をつけた。

「気ぃ付けるって、何によ?」

「昔の先輩とか。サエのせいで捕まったっち思っちょる」

東京で会った山内とかいう警官によると、あたしを捜す課程でいくつかの違法行為を検挙できたらしい。

わかっていて法を犯しているのだから本来なら恨みっこなしだが、そもそも常識など通用しない自己中心的なやつらの集まりだ。

逆恨みしたやつらは親父をリンチしたらしいし、あたしにも同じ感情を抱いていてもおかしくない。

ヒロキの言う通り、気を付ける必要がありそうだ。

もし狙われたらDV程度で済まないだろう。

「わかった。気ぃ付ける」

地元に戻ったのは失敗だったかもしれない。

一度捨てたものを取り戻そうだなんて、虫のいい考えだった。

表情が暗くなったあたしを見て、ヒロキはタバコを灰皿に押しつけて笑った。

「ま、俺は生きちょって嬉しいけどな」

「先輩がおるかもって思って入ってきたんやけど……今思えばヒロキでよかったわ」

もしその先輩だったら、即アウトだったかもしれない。

「ほんとやん。ラッキーやったなぁ、俺で」

< 141 / 233 >

この作品をシェア

pagetop