ゲイな彼と札束
そう言ったヒロキはカウンターの奥にある椅子に座り、だらしない態勢でタバコに火をつけた。
「気ぃ付けるって、何によ?」
「昔の先輩とか。サエのせいで捕まったっち思っちょる」
東京で会った山内とかいう警官によると、あたしを捜す課程でいくつかの違法行為を検挙できたらしい。
わかっていて法を犯しているのだから本来なら恨みっこなしだが、そもそも常識など通用しない自己中心的なやつらの集まりだ。
逆恨みしたやつらは親父をリンチしたらしいし、あたしにも同じ感情を抱いていてもおかしくない。
ヒロキの言う通り、気を付ける必要がありそうだ。
もし狙われたらDV程度で済まないだろう。
「わかった。気ぃ付ける」
地元に戻ったのは失敗だったかもしれない。
一度捨てたものを取り戻そうだなんて、虫のいい考えだった。
表情が暗くなったあたしを見て、ヒロキはタバコを灰皿に押しつけて笑った。
「ま、俺は生きちょって嬉しいけどな」
「先輩がおるかもって思って入ってきたんやけど……今思えばヒロキでよかったわ」
もしその先輩だったら、即アウトだったかもしれない。
「ほんとやん。ラッキーやったなぁ、俺で」