ゲイな彼と札束
本当にラッキーだった。
ここでヒロキに会っていなかったら「気を付ける」という考えにも至らなかった。
ホッとしたところで、今は暗い話よりも旧友との再会を喜ぼう。
このままでは暗い店内がますます暗くなる。
「ヒロキ、見た目変わりすぎ。そんなに体に穴開けて、彫りまくって、ドMなんやないの?」
おどけてそう言うと、ヒロキは刺青だらけの腕をさすった。
「そうかもなぁ。俺彫るの好きやし。男のケツは掘るのも掘られんのも勘弁やけど」
彼としてはおそらくギャグのつもりで放ったその言葉に、あたしは一瞬笑顔を失った。
頭に浮かぶ、あの男の顔。
せっかく明るく振る舞おうとしたのに、こんなんじゃダメだ。
あたしは再び笑顔を作る。
「鳥肌立ったやん。男同士とか、気色悪いな」
「想像するお前が悪い」
たとえそこに真実の愛があったとしても、純粋な恋心があったとしても、だ。
マモルが属するその世界は、ノーマルなあたしには受け入れ難い。
あいつとは住む世界が違ったんだ。
「なあ、せっかく再会したんやし、携帯教えろよ」
「うん」
未練がましく赤い携帯を買ってしまった自分が惨めで仕方ない。
マモルは今頃どうしているだろうか。
新しい男はできただろうか。
それとも、新しい女ができただろうか。