ゲイな彼と札束
その後は互いに今までどうしていたかなどを話し、ヒロキが焚いた甘いお香が燃え尽きた頃に店を出た。
「また来ぃよ。店は大体暇やからさ」
と言うヒロキに、笑顔で頷く。
彼は暇だと言ったが、確かにあたしがいる間、誰ひとり店には訪れなかった。
店の外へ出ると、夢から現実に引き戻されたかのように寒く感じた。
店内は暖かくて甘ったるい香りがして、居心地が良かった。
気分が乗ったあたしは体を温めるため、散歩をしてみようと思い付く。
地元に帰ってからというもの、職場と家の周辺くらいしか歩いていない。
懐かしい場所でも覗いてみよう。
一度は捨てた故郷でも、思い出はたくさんある。
ブーツのヒールをコツコツ鳴らし、家とは違う方向へと歩き始めた。
街を抜けた先に中学がある。
校舎は外壁を塗り直したのか、あたしがいた頃よりきれいに見えた。
もう少し進むと川が流れている。
そこの河川敷は、あたしたち不良の溜まり場だった。
川沿いに少し歩いた先にある広場は暴走族の集会をやっていた場所。