ゲイな彼と札束
ヒロキとの再会から数日。
今日はバイト先のスナックが繁盛している。
「いらっしゃいませ。4人? ごめんなさいねぇ。今席が埋まっちょるんよぉ」
ママがまた一組客を帰した。
申し訳ないけれど、席には限りがあるし、今いるお客さんに帰れとは言えない。
スナックはダラダラするための店だ。
新しくお客さんを迎えた方が今日の売り上げはアップするだろうが、そのせいで「ゆっくりできなかった」という評判が発生すると、明日からのお客さんが減る。
それではいけないのだ。
そういうことも含め、あたしは社会に出たことで様々なことを学んでいる。
「繁盛しちょる。いいことやん」
「こっちはいいから、あのお客さんのとこ行ってやり」
常連のお客さんに激励されながら仕事ができるなんて、きっと幸せなことだ。
あたしはこの店の温かさを噛み締めた。
店が忙しくなっても、店にいるお客さんにゆったり過ごしてもらうためには、決してバタバタしてはいけない。
カウンターにはママが、向こうのテーブルるには先輩が、今日も明るい笑顔で接客している。
まだまだ新人で未熟者だが、あたしも頑張らなければ。
店が静かになったのは、ちょうど日付が変わった頃だった。
「みんなよう頑張ったなぁ。いつの間にやら客は俺一人か」
一人でチビチビ飲むが好きな高木のオッサンが笑う。
「今日はよう飲んだー。繁盛するのは嬉しいけど、毎日こうやと体がもたんわ」
と言いながら疲れなど一切見せないママがオッサンにつく。
ママから合図をもらい、あたしと先輩姉さんは裏で束の間のタバコタイムを迎える。
吸い終わったら、溜まっている洗い物をしよう。
などと考えながら、ライターで火をつける。
「サエちゃんて、随分男前なタバコ吸うんやね」
先輩はそう言って、女らしい細長いタバコに火をつけた。
煙は甘くてフルーティーなにおいがする。
「よう言われます。可愛らしいのじゃ足りなくて」