ゲイな彼と札束
先輩は笑って薄い煙を吐きながら、
「まだ19やのに。ほんとは吸ったらいかんのよ? あ、さては彼氏の影響やな?」
と不敵な笑みを浮かべた。
「やだー。彼氏なんていません」
「またまたー。あたしには正直に言っていいんよ」
「ほんとにいないんですって」
マモルの顔が脳裏をよぎる。
嘘はついてない。
もう別れた。
先輩には同い年の彼氏がいる。
ママにもバツイチだが年上の彼氏がいる。
話を聞けば、恋っていいな、なんて思ったりもする。
しかしこの仕事をしていると、出会いがない。
お客さんは既婚のオッサンばっかりだし。
「好きな人もおらんの?」
「えっ……?」
先輩の一言に、あたしは一瞬固まってしまった。
「あ、おるっち顔した」
「おるっていうか……振られました。夏の終わりに」
「夏って、まだ東京おったんやない?」
「はい。東京で振られたんですよ」
棚に置いていた赤い携帯に視線を移したとき、店の方で異常な音が聞こえた。