ゲイな彼と札束
恐らく入り口の扉が乱暴に開けられた音。
明らかに何らかの意図の感じられる大きくて速いリズムの開扉音に、シャラララと優雅なドアベルの音が混じる。
次に聞こえたのは複数の男の声だった。
「なんやろ」
先輩がタバコ片手に店内を覗こうとすると、ママが焦った顔をしてこちらにやって来た。
「サエちゃん!」
何があっても穏やかなママがこんなに青い顔をするなんて、きっとただ事ではない。
嫌な予感しかしない。
「どうしたんですか?」
ママが説明を始める前に、あたしは全てを察することができた。
「おう、おったわ」
ママを追ってこちらに侵入してきた男。
いやというほどに見覚えがある。
「ヤマ先輩……」
あたしがいた不良グループの中でも、一際厄介な先輩だ。
当時よりいくぶんか太って、余計に悪そうに見える。
いや、おそらく大人になった分、余計に厄介になったのだろう。
「久しぶりやのぉ、サエ。生きちょるんはホントやったか」
怯えているママと先輩。
カウンターに一人の高木のオッサンが気になる。
大変世話になっているこの店に、迷惑はかけたくない。
あたしは吸いかけのタバコの火種を灰皿に転がした。
「ママ、あたしちょっと出てきます」