ゲイな彼と札束
電機屋で拭ってくれた左膝の擦り傷は、やっと乾燥してかさぶたを作り始めている。
「コーヒーでも入れる。座ってて」
「ああ、ありがと」
お言葉に甘えてソファーに腰を下ろすと、嫌でもごちゃごちゃしたテーブルに目が行く。
チューハイの空き缶、何かの資料、エアコンのリモコン、週刊誌、そして……。
背後ではマモルがケトルを火にかける音がした。
「サエ。砂糖とミルク、どうする?」
その質問に、あたしは答えられなかった。
テーブルに空き缶と同じように放置されている、3つのそれから目が離せなかったのだ。
「サエ?」
心配したマモルが顔をうかがいにやってきた。
あたしの視線を追い、納得したようにそれを一つ掴む。
「ああ、これか」
そしてまるで読み終えた古い雑誌を扱うように、ポイッと乱雑にテーブルへ戻した。
厚さ約1センチにまとめられた、福沢諭吉の束が3つ。
300万円だ。