ゲイな彼と札束

「あんた今まで何しちょったん?」

「逃げてましたよ、あんたらが殺した親父から。死んだっち知らずにね」

拳が一発。

女の拳だけど、指輪が当たって頬骨が砕けるかと思った。

「あの親父もお前が逃げんけりゃ死なんで済んだやろ。で? お前どこにおったん?」

「東京に」

「えらい遠くまで逃げとったなぁ」

ダメだ。

刃向かわずにおとなしくしといた方が得だと、頭ではわかっているのに。

心の炎が消えてくれない。

「おかげさんで勉強になったわ」

「はぁ?」

「あんたら、どんなにイキがってもただの田舎もんだよ。チームも走り方も、生きざまも、全部ダサい」

今度は顔に足が飛んできて、あたしはまた転がった。

それを合図に袋叩き。

アドレナリンが出てないため、痛みは全て受け入れなければならない。

この世は理不尽にできている。

あたしは親父を殺したやつらに、親父への復讐をされているのだ。

正義は勝つなんて大嘘だ。

フィクションの世界が植え付けた妄想だ。

この世は確実に、善人より悪人の方が強い。

それを知ってたから、あたしは善人になんかなりたくなかった。

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