ゲイな彼と札束




夢を見た。

あたしは水族館の水槽で泳いでいる。

泳ぎは得意でないはずなのに、意のままに動くことができる。

呼吸だってできる。

夏に行った水族館で見た生き物のように、あたしは優雅に泳いでいた。

マモルが誰かと手を繋いでこちらまでやってきた。

ジョージだ。

あたしを見て楽しそうに笑っている。

あたしはマモルに話しかけたいが、声が出ない。

あたしの思いはマモルには届かない。

何度名前を呼んだって、マモルはジョージと指を絡め微笑み合ってあたしを珍しそうに眺めている。

そのうち二人はあたしを見飽きて、次の水槽を見に行ってしまう。

悲しい夢だった。



「瀬戸さん、わかりますか?」

……え?

「ここ、病院ですよ」

病院?

「ご気分いかがですか?」

目を開けると、知らない女の顔がある。

見るからに看護師。

周囲を薄い色のカーテンに囲まれている。

においやその他の情報から判断できるのは、あたしがいるのが病室だということ。

ていうか、どこの病院?

「え……? あの、あたし……」

生きてるのか。

安堵と落胆が混じった複雑な気持ちがする。

なんか、あちこち痛い。

体が動かせない。

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