ゲイな彼と札束
「そいつ、すげー変わったやつでさ。見ず知らずのあたしに気持ち悪いくらい優しくしてきて、一緒に住もうとか言い出して。更には300万、あたしにやるって言ってきた」
「何やそいつ。かなり怪しいやんか」
マモルを知らない ヒロキは眉間にシワを寄せる。
ヒロキの言うとおりだ。
見ず知らずの女に優しくして、札束を差し出して一緒に住もうって。
新手の援交かよって話だ。
「やろ。けどただのお人好しやったわ」
あたしがそう言うと、ヒロキはぎょっとした。
「住んだんか、そいつと」
「うん」
「お前、バカやろ」
「あっちも色々とワケアリでさ。あたしも寝る場所が欲しかったし」
本当に、奇妙な出会いだった。
あたしは体が傷だらけ。
マモルは心が傷だらけ。
互いの傷を舐め合うように、共に暮らした。
優しくされて、あたしは幸せだった。
たった一月だったけど、マモルとの日々が今のあたしを支えている。
「それで、何で逃げたん?」
「一緒におるんが辛くなったんよ。いくら頑張ってもあたしに気持ちは向かんから」
マモルを思い出すと苦しい。
今でもたまに切なくなる。
じわっと目が熱くなった。
ヒロキの前で泣いたりしたくないのに。
「優しくしてくれたんやろ? 相手もサエのこと、好きやったんやないんか?」
ポタッ。
シーツに一粒落としてしまった。
マモルだってあたしを好いてくれていた。
でも、あたしの好きとは違う。
あたしは首を横に振った。
「そいつ、ゲイなんやもん」