ゲイな彼と札束
ドアノブ
無事に退院したあたしは、ヒロキの車で自宅へと戻ってきた。
松葉杖を付きながらヨタヨタと車から出る。
我ながら無様な姿だ。
住んでいるのが1階なら良かったのに、生憎わが家は2階。
力むと肋骨が痛むし、でも力まないと階段は上れない。
試練である。
「おいサエ、大丈夫か?」
「いけるいける」
痛みが落ち着くまでは何かとヒロキの世話になるけど、あまり迷惑はかけたくない。
自分の力だけで生きていけるようにと努めてきたのに、たったの2ヶ月で大ケガしてこの様だなんて、私はまだまだだ。
「無理すんなよ。おんぶしてやろうか」
「大丈夫やし」
階段を上ってしまえば後は楽だ。
まっすぐドアまで進めばいい。
事前にバッグを持っているヒロキから鍵を受け取りドアを臨むと、うちのドアノブに何か袋がぶら下がっていた。
見覚えのある本屋の薄い袋だ。
どこの本屋だったか。
本なんて雑誌くらいしか読まないからわからない。
「何やろこれ」
ヒロキも袋に気づく。
「持ってきて」
袋はヒロキに任せ、あたしは解錠し、先に部屋の中に入った。
松葉杖を傘の横に立て掛け、片足でピョンピョンしながらベッドまで移動する。
いかん、飛ぶと肋骨に響く。