ゲイな彼と札束
「何もない部屋やなぁ」
収納付きのベッドとテーブルとテレビくらいしかない、可愛いげのない部屋。
カーテンやシーツはグリーン系に統一しており、ユニセックスな感じにコーディネートしている。
女っぽくはないが、こういう方が好きだ。
「うるさいな」
「ほれ、さっきの袋。中身は本みたいやな。本屋の袋やし」
ヒロキから袋を受け取ったが、心当たりがない。
たまに来る何かの宗教のおばさんたちが、たまに布教のための本を投函していくが、どうせその類いだ。
他にすることもあるし、いったんベッドに放置した。
「薬取って。それとグラスに水」
そろそろ痛み止めが切れる時間だ。
こいつが切れるとスイッチが切れたように痛みだすから、炎症がもう少し治まるまでは欠かさず飲みたい。
「人使い荒いなぁ」
「いいやん。ヒロキ、ドMやろ」
ヒロキは笑いながら水の入ったグラスを持ってきた。
そして処方箋の袋から薬を取り出し、あたしの手に乗せてくれた。
薬を飲み込んだあたしからグラスを受け取り、小さなテーブルに置いてベッドに腰かける。
重みであたしまでズンと跳ねる。
「試してみるか? 俺がドMかどうか」
自分のひざにひじをついた低い態勢で、ニッと口角を上げている。
中学の頃よりグッと大人っぽくなったヒロキは当時よりずっとカッコよくなったとは思うけど、そういう対象として見たことはない。
「それだけ彫っちょればドMやろ」
ヒロキは腕だけでなく、脚や背中、腰にもタトゥーがあるのだ。
「俺、怪我人相手でもイケる程度にはSやぞ?」
「はぁ?」
「それに……」
「えっ、ちょっ……」
ヒロキは腰からあたしの服の中に手を突っ込み、直に背中に触れてきた。