ゲイな彼と札束

卒業式の日……?

あの日は式の後、不良仲間で河川敷に集まった。

世話になった先輩たちも祝いに来てくれて、彼らが買ってきてくれた酒で、昼間から酒盛り。

タバコを吸いながら家出の計画の遂行を決意していたあたしに、ベロベロのヒロキがあたしに抱きついて言った。

『サエぇ~好きぃ~』

もしかして、これのことを言っているのか?

「酔っぱらいのうわごとやんか」

「バカ野郎、俺は本気やったっつーの」

バカはお前だ。

そんなんで伝わるか。

可笑しくて笑うが、笑うと肋骨が痛い。

「あはは、いてて。笑わせんな。痛いやん」

「人の告白を笑うなよ」

楽しいなぁ。

友達という存在はありがたい。

そう思ったのに、ヒロキはやけに真剣な顔をしてあたしに近づいた。

「俺、今だって結構未練あるんやし」

顔が、近い。

しまった。

コルセットで貞操と乳は守られているけど、唇は無防備だ。

求めてはいないけど、嫌ではない。

もうこのままヒロキの胸に飛び込んでしまおうか。

ヒロキは厳ついけど、心は優しい。

飛び込めば、きっとあたしを愛してくれる。

そう思ったとき、ドアノブにかかっていた本屋の袋が存在を主張するかのように、パサッと滑り落ちた。

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