ゲイな彼と札束
「マモルって……例のゲイか?」
「うん」
ヒロキはタバコに火をつけた。
あたしは吸う気になれない。
「違うかもしれんやろ」
「間違いないよ……」
だってあたしは覚えている。
札束はいつも灰皿のそばにあって、舞った灰のせいで微かに汚れていた。
マモルの部屋を出る少し前、何となく諭吉に申し訳なく思ってその汚れを指で拭ったら、逆に灰を擦り付けてしまう結果となった。
諭吉の頬のあたりに灰が広がり、線が入ったのだ。
今ベッドに転がした札束の諭吉のように。
それに、この本屋の袋。
よく見てみたら、マモルとたまに行っていた本屋のものだ。
だから、間違いない。
マモルだ。
マモルがここに来たんだ。
でも。
「何で来たんやろ。何でここがわかったんやろ……」
あたしは何も言わずに部屋を出たのに。
ヒロキが煙を吐きながら答える。