ゲイな彼と札束
ヒロキは拗ねたように言ってタバコを灰皿に押し付けた。
「ピーピーって」
ちょっぴりポロリとしただけで、そんなに泣いてないだろう。
あたしは力なく笑うしかできない。
「俺の初告白は忘れちょるわ、他の男のことで泣き出すわ、マジムカつくわぁ。これからサエのことゲイピーて呼ぶけぇな」
「それはマジでやめろ」
「ったく、許せん。サエを泣かせる男とか、今すぐボコりたい」
「それもやめてや」
言葉はふざけているが声のトーンは低い。
シャツをまくって露になったスミだらけの腕に力が込められているのがわかる。
中学時代よりずっと逞しいヒロキ。
こんなのに殴られたら、十中八九マモルもこういう病院に入ることになる。
マモルが傷つくのは見たくない。
ずっとあの穏やかな顔で笑っていてほしい。
だからあたしは、マモルに迷惑や心配なんてかけたくない。
深く息をつくと、またビリッと骨が痛んだ。
「ヒロキ」
「あ?」
「ブスな泣き顔晒してごめん」
ヒロキは厳つい顔をくしゃっと緩めて、照れたように笑った。
「まったくやな。お前のゲイピー顔なんて見とうないっちゅーの」