ゲイな彼と札束
弱さを見せることや甘えることの大切さを教えてくれたのはマモルだった。
励ましと言えば『頑張れ』としか聞いたことなかったが、『頑張らなくていい』と言ってくれた。
あたしがずっと生きるか死ぬかの思いで頑張っていたことを知って、その必要がないと示してくれた。
あたしはきっと、甘え下手な子供だったのだと思う。
反発したり暴れたりすることでしか、自分の意思を発信できなかった。
素直に親父に甘えられていれば、あたしはもっとまともな人格になって、今とは全然違う人生を歩んでいたかもしれない。
「お、時間や。店行かんとな」
時刻はもうすぐ午前11時になろうとしていた。
ヒロキは仕事の時間だ。
「うん。ありがとね」
支えられながらゆっくり立ち上がり、ピョコピョコ不格好に歩いて玄関まで移動する。
骨にヒビは入っていても、見送りくらいできる。
「あんまり無理すんなよ」
「うん」
「それと、肋骨治ったら覚悟しちょれよ」
「はは、覚えとくわ」
ヒロキは照れたように笑ってあたしの部屋を出た。