ゲイな彼と札束
静かになった部屋で、マモルの札束と向き合う。
頬に傷を負った諭吉に責められている気になる。
よくよく考えたら、マモル本人がここに来たとは限らない。
代理の誰かかもしれない。
それでも、この札束がマモルの意思でここにあるのはほぼ間違いない。
一体、どういうつもりでそうしたのか。
ヴー ヴー ヴー
バッグの中で赤い携帯が鳴りだした。
しんとした部屋に響いて、ビクッと体が震える。
骨が痛まないようゆっくり動き、バッグから電話機を取り出しても、振動は止まらないままだった。
発信元はママだ。
「もしもし」
「あ、サエちゃん? 退院おめでとう」
「ありがとうございます。おかげさまで、生きて帰れました」
ママが安心したようにため息をついた音が、電話越しにもわかる。
「高木さんも心配しちょったんよ。店のことは気にせんでいいけ、早くようなりーね」
「はい」
ママはこんなあたしに、いつも優しい。
マモルと出会ってから出会う人々は、みんな優しく、親切にしてくれる。
それはたぶん、マモルと出会ってあたし自身が変わったからだ。
「あ、そういえば昨日、珍しいお客さんが来たんよ」
「珍しいお客さん?」
「そう。標準語やったし旅行客みたいやけど、えらく若い子でねぇ。若い男の子なんて、うちにはめったに来ないけ、サエちゃんのお友達やないかなぁ」