ゲイな彼と札束
標準語を話す、若い男の子。
そんなの都合がよすぎるかもしれないけれど、思い浮かぶ人物はただ一人。
視線は自ずと札束の方へ向く。
「ママ、その人どんな人でした?」
「可愛らしい男の子やったわ。色白で触りたくなるくらい美肌よ」
可愛らしくて、色白の美肌。
「髪は? 黒髪ですか? 目は細いタレ目じゃなかったですか?」
つい興奮して、声が大きくなってしまう。
「そうそう。目は細めやったかな。黒髪で華奢な子ぉやったけど……サエちゃん、やっぱりお知り合い?」
「ええ、おそらく」
マモルだ。
間違いない。
やっぱり来てたんだ。
「あの子、サエちゃんを訪ねてきたのかしら。いい子やったけどサエちゃんの名前は会話に出なかったし、昨日はお友達やなんて考えに至らなくて……。せっかく遠くから来てくれたのにねぇ」
もし事故のことを知ってこの町に来たのなら、マモルはあたしが入院して出勤しないことを知っていたはず。
職場まで調べておいて、店にまで来たくせに、あたしのいる病院には来なかった。
この金だって、ドアノブにかけてあっただけ。
マモルは金をよこすつもりではあったけれど、あたしに会うつもりはなかったということだ。
なんだよ。
だったら来るんじゃねーよクソ野郎。
この金はいらないから置いてったんだ。
「お友達なら、会わなくていいの? 今日帰るそうよ、1時の便で」