ゲイな彼と札束

ということは、マモルはまだ県内にいる。

「1時、ですか……」

今から空港へ行けば間に合うかもしれない。

だけど、マモルはこの地へ出向いたくせに、あたしに会おうとはしなかった。

会いたくなかったと捉えるのが普通だ。

会いに行ったところで、満身創痍のあたしはどんな顔をして、どんなことを話せばいいのだろう。

「サエちゃん。大人になるとね、仲の良かった友達でも、一生会えなかったりするの」

「一生……?」

ママの言葉が、胸にぐさりと響く。

もう二度と会わないと決めてここへ戻ってきたはずなのに、一生会えないと聞いてショックを受けている。

「うん。体も大事にしてほしいけど、後悔はしてほしくないけぇね」

「後悔……」

マモルの元を離れたことに、後悔はない。

こうして新しい生活を営むことができたし、あたしはもっと早くにこうしておくべきだった。

でも、本当は。

心の奥底では、モヤモヤしていた。

短い手紙だけ残して出ていって、マモルは心配したに違いない。

あたしだって、マモルの優しさを失って、寂しいと思っていた。

「今から行けば間に合うんかもしれんよ?」

人生経験豊富なママは、あたしのマモルへの気持ちを察しているのだろう。

「ありがとうございます、ママ」

後悔、したくない。

あたしはバッグにマモルが持ってきた200万円と、しまってある未使用の30万円、そして財布とタバコと携帯を詰め込んだ。

そしてスウェット姿のまま、松葉杖を突いて部屋を飛び出した。

< 173 / 233 >

この作品をシェア

pagetop