ゲイな彼と札束
ということは、マモルはまだ県内にいる。
「1時、ですか……」
今から空港へ行けば間に合うかもしれない。
だけど、マモルはこの地へ出向いたくせに、あたしに会おうとはしなかった。
会いたくなかったと捉えるのが普通だ。
会いに行ったところで、満身創痍のあたしはどんな顔をして、どんなことを話せばいいのだろう。
「サエちゃん。大人になるとね、仲の良かった友達でも、一生会えなかったりするの」
「一生……?」
ママの言葉が、胸にぐさりと響く。
もう二度と会わないと決めてここへ戻ってきたはずなのに、一生会えないと聞いてショックを受けている。
「うん。体も大事にしてほしいけど、後悔はしてほしくないけぇね」
「後悔……」
マモルの元を離れたことに、後悔はない。
こうして新しい生活を営むことができたし、あたしはもっと早くにこうしておくべきだった。
でも、本当は。
心の奥底では、モヤモヤしていた。
短い手紙だけ残して出ていって、マモルは心配したに違いない。
あたしだって、マモルの優しさを失って、寂しいと思っていた。
「今から行けば間に合うんかもしれんよ?」
人生経験豊富なママは、あたしのマモルへの気持ちを察しているのだろう。
「ありがとうございます、ママ」
後悔、したくない。
あたしはバッグにマモルが持ってきた200万円と、しまってある未使用の30万円、そして財布とタバコと携帯を詰め込んだ。
そしてスウェット姿のまま、松葉杖を突いて部屋を飛び出した。