ゲイな彼と札束
もう一度よく周りを見渡してみる。
やはりそれらしい男は見当たらない。
「東京行きのお客様へ、機内へのご案内を開始いたしますーー」
あたしはゲートを離れて、東京行きの搭乗口が見える場所まで移動した。
ガラスにへばり付いて人の列を眺める。
顔まではハッキリ見ることはできないが、マモルなら、夏から劇的に変わっていない限り、後ろ姿でも一目見てわかる。
マモルらしい男はいない。
人はスムーズに機内へと流れている。
こんな片田舎でも、飛行機を利用する客は意外に多いらしい。
あたしは最後の一人がいなくなるまで列を見つめていた。
しかし、結局マモルを見付けることはできなかった。
あたしがここを覗く前に乗ってしまったらしい。
スウェットに松葉杖。
札束と携帯だけを入れた小さなバッグ。
退院したばかりで当然ノーメイク。
情けない自分の姿を客観的に見ると、この上なく恥ずかしい。
それでも、アザを晒して新宿を歩けるこのあたしだ。
顔以外の傷は隠れているし、あの時よりずっとマシ。
あたしは意を決して松葉杖をついた。