ゲイな彼と札束
5階へ上がり、マモルの住む角部屋の前へ。
夕食時だからか、他の部屋からカレーの匂いが漂ってきた。
腹減ったな……。
考えてみたら、今朝病院で朝食をとったっきりだ。
だけど空腹なんてすぐにどうでもよくなった。
扉の前に立つと、ドクドク心臓が落ち着かない。
その振動が、敏感になっている肋骨に響く。
あたしはいったん唾を飲み込み、震える人差し指でチャイムを押した。
ーーピーンポーン ピーンポーン
しばらく待つが、反応がない。
もう一度チャイムを鳴らす。
……が、やっぱりマモルの反応はない。
もしかして、いない?
どこかに寄り道しているのだろうか。
あたしは羽田に着くなり焦ってここへ一直線に飛んできたけれど、いつの間にか追い越してしまったのかもしれない。
あるいは、居留守か。
「なんだよ……」
扉に耳をつけてみても人がいるような音はしないし、新聞受けを指で押して覗いてみても、暗いだけで何も見えない。
行くところもないし、待つしかない。
松葉杖をドアに立て掛け、廊下の塀に寄りかかる。
しんとする田舎とは違う、都会の音がする。
秋の冷たい空気がスウェットを通過して肌に沁みてきた。
やっぱり東京は寒い。
どこ行ってんだよ。
さっさと帰ってこい。
寒さが思ったより堪える。
コルセットがなければ震えていたかもしれない。