ゲイな彼と札束
“加藤護”
その名前が頭に大きく響いた。
同時に心臓までドキドキし始める。
マモルはまだ地元にいたのか。
ママの話は嘘だった?
いや、そんなはずはない。
急きょ予定を変更したんだ、きっと。
マモルがここにはいないとわかった瞬間、あたしの身体の全てが我に帰ったように痛みだす。
ヒビの入った骨のあたりはもちろん、所々のかすり傷や松葉杖を支えていた脇。
疲れがどっと溢れ、あたしは泣きそうになった。
「じゃあマモルはここにいないのか……」
力なく呟くと、どこかで車のクラクションの音がした。
『こいつ、金置いてったやつやろ?』
「うん」
『お前、こいつに会うためにそこにおるんか?』
「……うん」
電話越しにヒロキのため息が聞こえた。
その場にマモルがいるのなら、声だけでも聞こえないかと耳を凝らす。
だけど聞こえてきたのはやっぱりヒロキの声だった。
『こいつも……お前に会うために空港から戻ってきたっち言いよる』