ゲイな彼と札束

「嘘や。空港にはおらんかったもん。やけぇあたしが東京に……」

『すれ違ったんやろ』

「そんな……」

ゲートや搭乗口でマモルを見つけることはできなかった。

だからってマモルが搭乗せずに引き返したという発想には至らなかった。

だって普通、空港まで来て戻らない。

『すぐ帰って来ぃよ』

「飛行機がないわ」

『チッ。どっかに泊まるしかないな。金持っとる?』

「うん」

金だけはたくさん持っているけど、正直、体が痛くてもうあんまり動きたくない。

この近くにホテルなんてあっただろうか。

『サエ』

耳に届いた優しい声。

心を震わせ、揺るがし、締め付ける、いやらしく優しい声。

電話越しだけど、2ヶ月ぶりに聞くマモルの声だ。

「マモル……」

嬉しくて、愛しくて、切なくて。

涙は自然に流れ出た。

『大丈夫だよ。泣かないで』

「泣いてねーよ、バカ野郎……」

あたしの情けない鼻声が廊下に響く。

クスッと笑う声が受話口から聞こえた。

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