ゲイな彼と札束
『サエ、俺のこと追いかけてくれたんだ』
「別にそんなんじゃねーし。金返そうと思っただけだし」
マモルの小さな笑い声とヒロキの「余計なこと喋んな」という声が聞こえた。
『鍵、サエが置いていったままにしてあるよ』
置いていったまま?
ああ、確かあそこに入れたんだ。
「郵便受け……?」
『うん。わざわざどこかに泊まらなくても、うちにいればいいじゃんか』
「でも……」
『何遠慮してんだよ。そこは俺とサエの家だろ?』
その一言を聞いて、あたしはタカが外れたように泣き始めてしまった。
もう意地なんて張れなかった。
抑えられなかった。
あんな形でここを飛び出したのに、それでもマモルはここをあたしの家だという。
「……帰ってきて、いいの……?」
涙やら鼻水やらで上手に喋れない。
『当たり前だろ。サエは俺の彼女なんだから』
「ゲイのくせにっ!」
『ゲイが女の子と付き合っちゃいけないなんてルールはないよ。俺、別れるなんて聞いてないからね』