ゲイな彼と札束

「出ていったことっ……、すげー後悔した」

『うん』

「地元帰ってもっ、寂しくて……。ヒロキと会えたけど、昔の先輩たちに、殺されかけてっ……」

『うん。守れなくてごめん』

「脚痛いし、肋骨も……」

『うん、もう泣かないで。俺まで泣きそうになるよ』

電話越しなのに、マモルの声を聞くと心を撫でられているような感覚がする。

抱き締められたように心が暖まっていく。

涙が止まらなくて恥ずかしいけど、マモルになら聞かれてもいい。

「黙って出ていってごめん……」

『もういいよ。うちに帰ってくるだろ?』

「うん。早くマモルに会いたい……」

自分の人生で、こんなセリフを言う日が来るなんて思ってもみなかった。

少女マンガや恋愛ドラマだけで通用する、安っぽくて嘘臭いだけのセリフだと思っていた。

大間違いだ。

気持ちが高まりすぎて、言葉は自然と出ていった。

安っぽいんじゃない。

嘘臭いんじゃない。

こんな気持ちになったことがないだけだった。

『うん、俺も。明日、朝イチの飛行機で帰るから。俺が帰るまで待ってられる?』

「うん、待ってる」

廊下の塀を使ってゆっくり立ち上がる。

電話からヒロキに代わる音が聞こえた。

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