ゲイな彼と札束

『おいサエ』

ヒロキはやや不機嫌な声色だ。

「はい」

少し前に泣き顔を見せてしまったが、それを思い出させるようで、鼻声を聞かせてしまうのが恥ずかしい。

『とりあえず、よかったやん。でもムカつくからこいつをもう一発殴る』

「すでに一発殴ってんのかよ!」

驚いて返した言葉をヒロキは笑った。

ひ弱なマモルが怪我をしていないか心配になる。

『あー軽く殴っといた。つーか俺に標準語で喋んな。気色悪い』

「あ、ごめん……」

さっきまでマモルと話していたから、つい。

あたしは立て掛けていた松葉杖を一つ脇に挟み、エレベーターへと向かう。

『ったく、また泣きよる。ゲイピーが』

「その言い方やめろ……」

結局この日はヒロキがマモルを(殴った後に)空港近くのビジネスホテルまで送り、マモルは朝イチの飛行機で東京に戻ることになった。

ヒロキにマモルを泊めてやれと言ってみたが、

『俺襲われたくないもん』

と断られてしまった。

「マモルは受け専門」

と教えてやっても、

『そういう問題じゃない』

と怒られてしまった。

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