ゲイな彼と札束
電話を切ったあたしは、誰も乗っていないエレベーターに乗り込み、1階へ降りた。
感度の高いオートロックのガラス扉のセンサーが反応しないように左へ通過。
ステンレス製の郵便受けは、規則正しく部屋の数だけ設置されている。
あたしたちの部屋の郵便受けのロックナンバーを押し、小さな扉を開く。
チラシやダイレクトメールに埋もれて、あたしが置いていった鍵があった。
本当にそのままにしてたんだ。
たぶん、あたしがいつでも帰ってこられるように。
松葉杖を持つのとは逆の手で、ボックスの中身を全て持つ。
再びセンサーが反応しないように自動ドア前を通過して、エレベーターで5階へ戻った。
もう一本の松葉杖と大金の入ったバッグを抱え、荷物がたくさんだ。
扉を正面に見据えると、少し緊張した。
鍵を挿す手が震える。
ーーカチャ
鍵は思ったよりずっと軽い音を立てた。
扉を開くと懐かしい匂いがした。
マモルの部屋はマモルの匂いがする。
甘くて優しい、マモルの匂いが。