ゲイな彼と札束

部屋は何も変わっていなかった。

玄関はマモルの靴が乱雑に置かれているし、廊下の先に見える寝室のドアは半開き。

リビングには大画面のテレビと小さなテーブル。

そして二人でよく座ったソファー。

テーブルにはあたしの赤い携帯と、挟んでいた手紙。

そしてあの日最後に吸ったタバコの吸い殻が、そのまま灰皿に入っている。

あたしは片足でテーブルに近づき、札束を元あった場所へ置いた。

札束は一つ足りないけど、諭吉の顔は少しだけ嬉しそうに見えた。

マモルといた季節は、エアコンが効いていないとクソ暑かったリビング。

すっかり季節が変わってしまった。

今では少し寒いくらいだ。

コーヒーを入れようとキッチンへ行くと、あたしのカップもインスタントの瓶や砂糖やミルクも、やっぱりあの頃ままの場所にある。

マモルはやっぱり、あたしの帰りを待っていたのだと、いたるところから伝わってくる。

寂しかったかな。

泣いたりしたかな。

テレビでジョージを見たときのように、捨て犬みたいな顔になったりしたのかな。

ケトルに水を入れ、火にかける。

一人で暮らしている間、自分なりに分量を研究した。

あたしの淹れるコーヒーの味は、マモルの味にかなり近付いたと思う。

< 188 / 233 >

この作品をシェア

pagetop