ゲイな彼と札束
部屋は何も変わっていなかった。
玄関はマモルの靴が乱雑に置かれているし、廊下の先に見える寝室のドアは半開き。
リビングには大画面のテレビと小さなテーブル。
そして二人でよく座ったソファー。
テーブルにはあたしの赤い携帯と、挟んでいた手紙。
そしてあの日最後に吸ったタバコの吸い殻が、そのまま灰皿に入っている。
あたしは片足でテーブルに近づき、札束を元あった場所へ置いた。
札束は一つ足りないけど、諭吉の顔は少しだけ嬉しそうに見えた。
マモルといた季節は、エアコンが効いていないとクソ暑かったリビング。
すっかり季節が変わってしまった。
今では少し寒いくらいだ。
コーヒーを入れようとキッチンへ行くと、あたしのカップもインスタントの瓶や砂糖やミルクも、やっぱりあの頃ままの場所にある。
マモルはやっぱり、あたしの帰りを待っていたのだと、いたるところから伝わってくる。
寂しかったかな。
泣いたりしたかな。
テレビでジョージを見たときのように、捨て犬みたいな顔になったりしたのかな。
ケトルに水を入れ、火にかける。
一人で暮らしている間、自分なりに分量を研究した。
あたしの淹れるコーヒーの味は、マモルの味にかなり近付いたと思う。