ゲイな彼と札束
ーーカチャ
室内に響いて、中へ入ったときより重い音がした。
視界より先に入ってきたのは彼の香水の強い香り。
ぐっと扉を押し開けると、そこにはあたしが予想した通りの人物がいた。
髪型は帽子でわからないし顔はサングラクスで隠れているけれど、それが彼であることは鼻と口ですぐにわかった。
彼はあたしが、いや、マモル以外の人間が出てくるとは思っていなかったのだろう。
部屋を間違えたと思ったのか、サングラス越しでも焦っているのがわかる。
「いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたよ。ジョ……いや、高田さん」
ジョージはあたしが事情を知る人間、いわゆる”マモルの彼女“だと気づき、サングラクスを外してホッとした顔を見せた。
「君は……瀬戸冴ちゃんだね。マモルは? もう寝てるかな?」
さすがは大物俳優だ。
香水の匂いもスゴいが、存在感もスゴい。
ここに来たのがバレるのはマズいだろうし、とにかく中へ入れなければ。
「とりあえず入れば?」
マモルの捨て犬顔を思い出す。
あいつを傷つけたのはこの男だ。
殴ってやろうとも思ったが、今回ばかりは自分の肋骨をいたわって、やめておくことにした。
その代わり、態度だけは大きく出よう。
芸能人だからってはしゃいだりするもんか。
「おじゃまするよ」
ジョージは図々しく中に入ってきた。
何なんだよこいつ。
人ん家にズカズカ入ってきやがって。
必死か。
ここはジョージが買った部屋だ。
足も骨にヒビが入ってるから、今日だけは多目に見てやろう。