ゲイな彼と札束
「マモル」
ジョージはまっすぐに寝室へ向かった。
「マモルなら、今はいないよ」
ジョージがこちらへ振り向く。
「え?」
俳優という生き物は、やはり飛び抜けて顔がいいもんだ。
非の打ち所がないくらいに整っている。
目が合うと意味もなくドキッとする。
マモルが惚れたのもわかる気がする。
でも、負けてたまるか。
「あたしの地元にいる」
「ん? マモルは君の地元なのに、どうして君がここに?」
整いすぎて動く人形のようなジョージが、滑らかな動作で首をかしげる。
今のあたしは見るからに怪我人だ。
ジョージはあたしの名を知っていた。
事件のことだって知っているのかもしれない。
「入れ違ったんだ。あたしもちょっと前にここに来た」
「そうか……はぁ……」
ジョージはガックリと肩を落とし、サッと帽子を脱いだ。
すごい、テレビで見たまんまだ。
悪い人間には見えないが、騙されてはいけない。
この男こそ、二股をかけてマモルを裏切り、挙げ句女の方を孕ませ結婚した極悪人である。
「コーヒー淹れるよ。好きなんだろ?」
もてなす気など毛頭ないが、客人にできることはこれくらいしかない。
「あ、ああ。ありがとう」
あたしは先にリビングへと入り、テーブルをさっと片付ける。
札束と携帯はキッチンの棚へ一時的に収め、灰皿はそのまま置いておく。
ジョージがこちらへ来たのを確認して、あたしはケトルを火にかけた。