ゲイな彼と札束

「マモル」

ジョージはまっすぐに寝室へ向かった。

「マモルなら、今はいないよ」

ジョージがこちらへ振り向く。

「え?」

俳優という生き物は、やはり飛び抜けて顔がいいもんだ。

非の打ち所がないくらいに整っている。

目が合うと意味もなくドキッとする。

マモルが惚れたのもわかる気がする。

でも、負けてたまるか。

「あたしの地元にいる」

「ん? マモルは君の地元なのに、どうして君がここに?」

整いすぎて動く人形のようなジョージが、滑らかな動作で首をかしげる。

今のあたしは見るからに怪我人だ。

ジョージはあたしの名を知っていた。

事件のことだって知っているのかもしれない。

「入れ違ったんだ。あたしもちょっと前にここに来た」

「そうか……はぁ……」

ジョージはガックリと肩を落とし、サッと帽子を脱いだ。

すごい、テレビで見たまんまだ。

悪い人間には見えないが、騙されてはいけない。

この男こそ、二股をかけてマモルを裏切り、挙げ句女の方を孕ませ結婚した極悪人である。

「コーヒー淹れるよ。好きなんだろ?」

もてなす気など毛頭ないが、客人にできることはこれくらいしかない。

「あ、ああ。ありがとう」

あたしは先にリビングへと入り、テーブルをさっと片付ける。

札束と携帯はキッチンの棚へ一時的に収め、灰皿はそのまま置いておく。

ジョージがこちらへ来たのを確認して、あたしはケトルを火にかけた。

< 193 / 233 >

この作品をシェア

pagetop