ゲイな彼と札束
棚からカップを取り出す。
実はここに、ジョージのものと思われるカップがある。
夏場はずっとあたしが使っていた黒いカップだ。
マモルとお揃いのペアカップ。
本来の持ち主が今、ここにいる。
「砂糖とミルクは?」
「ブラックで頼むよ」
「了解」
あたしはマモルのカップを使うことにして、ゆっくりコーヒーを淹れる。
ジョージにはブラックを。
自分には砂糖とミルクを入れて。
「どうぞ」
「ありがとう」
ジョージはソファーに腰を下ろし、ずいぶん疲れた顔をしている。
マモルとの接触は禁じられているはずだから、事務所やパパラッチの目を盗んでここまで来るのには、かなり苦労があったのかもしれない。
「ああ、美味しいよ」
カップを手に取り一口すする様でさえ、CMのワンシーンに見えてくる。
「そりゃどーも」
あたしはテーブルをはさんで向かい側に、ゆっくり座った。
ケガをしているからソファーの方がよかったけれど、ジョージの隣は嫌だった。
あたしも熱いコーヒーを一口飲み、二人同時に白地に赤丸の箱を手にした。
ラッキーストライク。
あたしは灰皿の横に置いておいたものを。
ジョージはジャケットのポケットから。
火をつけるタイミングも、一口吸って吐き出すタイミングも、ほぼ同時だった。
「今日はこんな時間にどのようなご用件で?」
煙を吐きながらふてぶてしく聞いてやる。
隠しもしない敵対心に、ジョージは困ったように笑い、煙を吐くばかりで何も答えない。
「何か言えよ。マモルを捨てたあんたが、今さら何の用だって聞いてんだ」