ゲイな彼と札束
「これ、お土産」
カチッとカップ同士をぶつける。
土産とはこのカップのことらしい。
「サエの地元って、焼き物が名産なんだね」
「名産っつっても、有名じゃないけど」
地元といっても正しくは同じ県内の遠くの市で、あたしは一度くらいしか行ったことのない。
「ふーん? 今朝、空港の土産屋でたまたまペアカップ見つけてさ。サエのカップ欲しかったから買っちゃった」
見るからに恋人同士、あるいは新婚夫婦のペアカップだ。
テーブルでジョージの黒いカップだけがやけに浮いて見える。
「あ……、そう」
ありがとう、と言いそうになったが、やめた。
当て付けでいちゃついてるみたいだし、目の前にいるジョージに笑顔なんて見られたくなかった。
礼は後から言うことにして、あたしはジョージに目を向ける。
ジョージは張り付けたような笑顔でマモルを見つめている。
マモルがあたしのために買ってくれたカップのコーヒーをすすった。
喉が潤い、香ばしいアロマと少しの苦みが心を落ち着け、温まる。
「シンさん」
マモルが彼を呼ぶ声に、あたしは少し緊張した。
もしかしなくてもこの状況、彼氏の元カノに会っているようなものなのでは。
複雑に絡み合った事情が、今やっと単純な形で目の前に出てきた重苦しさに押しつぶされそうだ。
マモルは何を言うつもりなのだろう。