ゲイな彼と札束
ジョージは眉を寄せた情けない表情でマモルを見据え、口を開こうとした。
しかし何かを言う前にマモルが先に声を出す。
「お願いだから、謝ったりしないでね」
「え……」
マモルの透明感のある穏やかな声とジョージの重く掠れた声が、あたしの耳にビリビリ響く。
謝らないでと言ったマモルは、ひとりだけ余裕の表情でコーヒーをすすった。
「初めは辛かったけど、俺はこれで良かったと思ってるし」
「でもな、マモル。俺は……」
「シンさんは結婚すべきだったんだよ」
マモルの言葉にジョージが萎縮する。
あたしは気まずくていたたまれないこの環境に、ただ堪えるしかない。
出会った日、マモルは捨て犬のように不幸な顔をしていた。
もうこの世に生きていても二度と幸せなんて訪れないと、すべてを諦めたような空っぽの顔。
それが今は、瞳に強い意思を宿し、しゃんと背筋を伸ばしている。
逞しく見える。
相変わらず華奢な体をしているが、縮こまったあたしとジョージなんかよりよっぽど大きく感じる。
酷い失恋を乗り越えて、加藤護という青年は強くなった。
大柄なジョージが小さな声で遠慮がちに告げる。
「マモル。俺はお前から気持ちが離れたわけじゃないんだ」