ゲイな彼と札束
——ダンッ!
マモルがテーブルに拳を突き立てた音に、あたしとジョージ、カップや灰皿もビクついた。
冷たくて嫌な空気が、ズンと重くなる。
「だったらどうして俺を捨てたの。土屋を選んだのはシンさんだろ」
“土屋”とは、ジョージの子を身ごもり、妻になった女だ。
マモルとはバイト仲間だった。
マモルとジョージの関係を知らなかったその女に罪はない。
あたしはどんな女か知らないが、どんなに性格が悪い女だったとしても、今は関係ない。
生物学的に女で生まれてきたことが、勝因になっただけの話だ。
どんなに気持ちや真剣さで勝っていたとしても、今の日本のシステムでは、男同士の方が分が悪い。
股をかけていたという裏切り。
妊娠発覚によって結婚。
自分の立場を守るために夢を奪い、一方的に金で片付けた身勝手さ。
悪いのはジョージだ。
本人もそれをわかっている。
マモルと付き合うために、こんなマンションまで用意して。
どれだけ金持ちか知らないが、ここまでされれば一般人は相手も真剣に考えてくれているのだと勘違いする。
今、どんなに手厚く支援してくれていたとしても、だ。
苦しめばいい。悩めばいい。
後悔すればいい。傷つけばいい。
ボロボロになればいい。
二度と俳優なんてできなくなるくらい、転落してしまえばいい。