ゲイな彼と札束
預金通帳
キブスとコルセットが取れ、自分の足で難なく歩き回れるようになった12月。
「脱げ」
ヒロキの突然の命令に、あたしはほぼ無意識に右足を振り上げた。
足はうまい具合に彼の腹に食い込み、ヒロキは大袈裟に床に転がった。
しばらく悶絶したあと、ヒロキは涙目で訴える。
「蹴らんでもいいやろ!」
「あんたが変なこと言うたから、右足が勝手に飛び出した」
通院や警察関係、その他諸々の手続きのため、あたしはジョージが去ったあの日のうちに一人で地元に戻っていた。
それらを全てやり終えて、引っ越しの準備をヒロキに手伝わせているところだった。
独り暮らしをしていたこの部屋も、明日管理会社に引き渡すことになっている。
中野のマンションに大体の荷物は送ったし、要らないものは捨てたし、部屋にはもうほとんど物がない。
ベッドは明日の朝、業者が引き取りに来てくれることになっている。
ベッドしかない部屋での「脱げ」なら、右足が飛び出してもおかしくないと思うのだが、あたしは間違っていただろうか。