ゲイな彼と札束
「別にそんなつもりで言うたんやない」
だったらどういう気だ。
そういう風にしか聞こえなかった。
ヒロキは頬を膨らせ、持ってきていた謎に重そうな鞄を自分に引き寄せる。
あたしはもちろん脱がずに様子をうかがった。
中から何やら機械のようなものを取り出し、ゴトゴト床に並べている。
「サエ、背中の鳥の脚が消えちょるって言うてたやん?」
「ああ、うん」
鳥っていうか、鳳凰だけど。
「消えたとこだけ入れちゃる」
並べていたのは刺青の道具だ。
あたしを彫った男が持っていたのとは違う小さめの機械だけれど、刺してインクを入れるペンのような部分は見たことがあるものと似ている気がする。
「あんた彫り師やったっけ?」
記憶が確かならアクセサリー屋だったはず。
「店のオーナーの本業が彫り師で、俺はまだ勉強中。俺を彫ったのもその人なんやけど、今日は道具だけ借りてきた」
薬品やら何やら準備し始めたヒロキ。
プロじゃないのに大丈夫かよ、というのが率直な感想だ。
衛生問題とか、技術的問題とか、色々不安がある。
「心配せんと、ちゃんと消毒するし、消えちょるとこ埋めるだけやけぇ」
「まぁ、それなら任せてみようかな」
あたしは後ろを向いて、着ていたトップスを脱いだ。
ヒロキの手でブラのホックが外される。
「鳳凰か……。神聖な鳥やのに、脚ちょん切られて怒っとったんかもなぁ」