ゲイな彼と札束
マモルはまた捨て犬のような顔になった。
この顔をするときだけは、何を考えているのかよくわかる。
「実は……さ」
歯切れが悪い。
わかってんだよ、どうせ男だろ。
「なんだよ。さっさと言えよ。そしてそんな顔すんな」
煮えきらないこいつに苛立ち、つい言葉が荒くなる。
萎縮して口ごもったマモル。
どうやら逆効果だったようだ。
あたしは十数秒、マモルの口が開くのを、歯を食いしばって待った。
「調査がね……入ることになってるんだ」
「調査? 何の?」
「俺に彼女がいるかどうかの調査、みたいな」
みたいなって、何だよ、それ。
あたしがその彼女になれってことか。
「はあ? お前ゲイだろ」
彼女って、どういうこと?
つーか彼女がいるかどうかの調査って、わけわからん。
そんなの個人の自由だろ。
何のための調査だよ。
「うん。でも、それを知られたら困る人がいるんだ」
「はぁ? 誰?」
「俺の、元彼」
もとかれ……って、こう聞くと生々しいな。