ゲイな彼と札束

書類に印字された機械的な文字。

個人の性格の出た直筆の氏名。

そして書類の効力の証すような捺印。

割り印の片割れは、きっと相手側が所持している。

「俺が約束したのは、この部屋で暮らすことと、彼女を作ること。そして、秘密を守ること」

「どうしてそんなこと……」

「彼の仕事に大きく関わるんだ。信用問題だよ」

マモルが自分のセクシャリティを裏切ってまで、別れた男の信用を守る必要があるのかよ。

バレたら困るとか、だったらはじめから付き合わなきゃよかったっていう話だ。

自業自得だろ。

だから金で解決か。

「とにかく、そういうわけでサエにはここにいてほしい」

「彼女になれってことかよ」

「うん。まあ、形だけ」

あたしには行くところがあるわけではないし、住まいや食料がほしい。

断る理由なんてない。

……が、釈然としない。

「表向きは恋人同士。実質的にはルームシェアってことで、どうかな?」

「お互いに好きな男ができたらどうするんだ」

「その時は、別れればいい。彼に必要なのは、俺がノーマル……つまりゲイじゃないってアピールすることなんだ。協力してもらえるだけでありがたいし、サエをここに縛り付けたいわけじゃないよ」

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