ゲイな彼と札束
それを聞いて、少しホッとした。
病気や堕胎を経験した汚れたカラダではあるけれど、生きていくために仕方なかっただけで、好きでこうなったわけじゃない。
こんなあたしでも、いつか好きな男と愛し愛されて幸せな結婚をしたいと願っているのだ。
それにしても、セクシャルマイノリティは大変だな。
今までの話を整理すると、元彼は、バレたら困る相手にマモルの存在を知られ、ゲイであることが疑われている。
それを隠すため、別れたマモルに大金を支払い、わざわざ仰々しい契約書まで書かせて、事態を打開するシナリオを完成させた。
マモルがゲイではないことがわかれば、自分もゲイでないと言い逃れられる。
二人で会っていたことが知られても、友人同士で遊んでいただけ、ということにできる。
そうすることで社会的信用を守れるらしい。
彼らが恋を成就させるには、ある程度の犠牲が付き物なのだとしても、だ。
同性愛者の知名度や理解が深まっている現代社会において、ここまでしなければならない職業とは一体何なのだ。
「ていうか、どうしてあたしなんだよ」
なかなかの大役だ。
もっと信用できそうな、ちゃんとした女を選べばいいのに。
「どうしてって?」
「もっとお前に似合う女がいるだろうが」
自分でも思うけど、マモルに元ヤン丸出しのあたしは似合わない。
マモルは気が抜けたように笑った。
「俺、女の子苦手なんだよね。でも、サエは女の子って感じしないから、楽」
「どういう意味だコラ」
まあまあ、と優しい笑顔であたしを宥める顔が気に入らない。
「じゃあ、こうしよう」
マモルは体勢を整え、まっすぐこちらに体を向ける。
そしてガツッとあたしの手を掴んだ。
「俺と付き合ってください」