ゲイな彼と札束
買い物を済ませて中野に戻ってきた。
改札を出てすぐ、マモルは「ちょっと寄りたいところがある」と言い出した。
「どこ行くの? 付き合うけど」
「荷物もあるし、すぐ済むからここで待ってて」
マモルは不自然な笑顔でそう告げ、荷物とあたしを喫煙スペースに残し、駆け足でどこかへ行ってしまった。
まぁ、いいけどさ。
知られたくないことだってあるだろうし。
タバコに火を着け、煙を吐き出す。
喫煙所にはサラリーマン風のオッサン数名とギャルっぽい女、そしてオタクっぽいアニメ柄のTシャツを着た男が、各々灰皿を利用している。
足元に置いた荷物を眺める。
たくさん買ってもらったなぁ。
服なんて、最低限しか持ってなかった。
拾ってもらった男の家に、置いてもらえる分だけ。
大体1着とか2着とか。
マモルには、後でちゃんと礼を言おう。
短くなったタバコをスタンド灰皿に落としながら最後に強く吐いた煙は、まだ明るい夕方の空に消えて行った。
今日はヒールで歩き回ったから脚がパンパンだ。
少しかがんでふくらはぎを揉んでいると、目の前に影ができた。
マモルが戻ってきたのだと思い顔を上げた瞬間、全身が凍りつく。
「久しぶりだなぁ、サエ」
金髪のオールバック、薄い茶色のサングラス。
金の太いネックレスに、自身の存在を主張するような真っ赤なジャージ。
「タケシ……」
つい一週間と少し前、あたしが逃げてきた男だった。