ゲイな彼と札束

屈したくない。

これで素直にしおらしく謝れば、殴られたりしないのかもしれない。

だけどあたしは恐怖を感じれば感じるほど虚勢を張ってしまう癖がある。

これまでの人生、自分が強くなければ、そう思わなければ生きていけなかった。

だけど、現実は。

どんなに睨み付けたって、タケシの手を掴み返して抗ったって、こいつの手はさらにあたしの頬骨に食い込んで痛みが増していくだけ。

フッとバカにするように笑ったタケシは、地面に叩きつけるようにあたしを解放した。

ゴツッと嫌な音がして、腕や頭に痛みが広がる。

フローリングや畳とアスファルトでは衝撃が違う。

手が離れた今が逃げるチャンスなのに、体が思うように動かない。

動かそうとするといろんな場所が痛むし、なんだか目の前がチカチカする……。

街の喧騒が頭に響く。

タケシはキレると手が付けられない。

何もないときは優しいが、一度怒らせると気が済むまで当たり散らす癖がある。

出ていったときの怒りが治まっていない彼は、あたしの胸ぐらを掴んで不気味に笑う。

ああ、捕まっちまった。

きっと次は拳だ。

前みたいに、まずは左頬に食い込むのか。

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