ゲイな彼と札束
何も考えずにシャワーを浴びてしまったあたしは、着替えを準備していなかった。
服も下着もないので、仕方なくタオルだけを体に巻き、リビングへと戻る。
コーヒーを入れていたマモルは、あたしを見るなり目を丸くしてすぐに逸らした。
「ちょ、サエ! 服着ろよ!」
「あー、うん」
あたしは適当に返事をしてエアコンの直下で冷風を浴びる。
濡れた体が冷えるのと一緒に頭も冷えていく。
モヤモヤやイライラがスーッと鎮火されていく心地よい感覚に目を閉じる。
しかし、その快感は電子音と共に、すぐに途切れた。
「風邪ひくよ」
マモルがリモコンで冷房を切ったようだ。
それを合図に用意された熱いコーヒーへ向かう。
タオルを巻いたままソファーに腰掛けると、隣のマモルが情けない声を出した。
「頼むから、服着てよ」
「別にいいじゃん。お前は男専門なんだから、何ともないんだろ?」
「何ともなくはないよ。それとこれとは別なの」
「意味わかんねーし」
「俺も男だから、女の体は見慣れないし恥ずかしいんだよ」
「あっそ」
構わずタバコに火をつけると、マモルは諦めたようにため息をついた。