ゲイな彼と札束
「タトゥーなんて入れてたんだ」
再び冷房を入れたマモルは、珍しそうにあたしの背中を見た。
あたしの背中には鳳凰が棲んでいる。
和彫とトライバルの中間的なデザインのタトゥーである。
「まあな。完成してないし、失敗作だけど」
「失敗?」
「下の方、見てみな」
背中を向けてやると、マモルは恐る恐るタオルを下にずらし、眺める。
「あ……」
あたしの鳳凰は、脚のあたりが一部途消えている。
また、美しく広がっている羽には、色がない。
昨年のはじめことだ。
当時、10以上年上の彫り師に世話になっていたあたしは、興味本位でこのタトゥーを入れてもらった。
しかし、こいつもまた暴力の好きな男だった。
ラインだけ彫った翌日、ひょんなことからケンカになり、怒り心頭に達した彼に背中を蹴られ、ぶつけた部分の色が飛んでしまった。
そこが鳳凰の脚だった。
その日のうちに彼の部屋を飛び出したあたしは、途切れてしまった絵を直すことも、色を入れることもないままこいつを背負っている。
脚の折れた鳳凰は、まるであたしの象徴のようだ。
フラフラ飛び回るけど、地に足を落ち着けてどこかにとどまることができない。
月日は過ぎ去っていくのに、色がない。