ゲイな彼と札束

「タトゥーなんて入れてたんだ」

再び冷房を入れたマモルは、珍しそうにあたしの背中を見た。

あたしの背中には鳳凰が棲んでいる。

和彫とトライバルの中間的なデザインのタトゥーである。

「まあな。完成してないし、失敗作だけど」

「失敗?」

「下の方、見てみな」

背中を向けてやると、マモルは恐る恐るタオルを下にずらし、眺める。

「あ……」

あたしの鳳凰は、脚のあたりが一部途消えている。

また、美しく広がっている羽には、色がない。

昨年のはじめことだ。

当時、10以上年上の彫り師に世話になっていたあたしは、興味本位でこのタトゥーを入れてもらった。

しかし、こいつもまた暴力の好きな男だった。

ラインだけ彫った翌日、ひょんなことからケンカになり、怒り心頭に達した彼に背中を蹴られ、ぶつけた部分の色が飛んでしまった。

そこが鳳凰の脚だった。

その日のうちに彼の部屋を飛び出したあたしは、途切れてしまった絵を直すことも、色を入れることもないままこいつを背負っている。

脚の折れた鳳凰は、まるであたしの象徴のようだ。

フラフラ飛び回るけど、地に足を落ち着けてどこかにとどまることができない。

月日は過ぎ去っていくのに、色がない。


< 51 / 233 >

この作品をシェア

pagetop