ゲイな彼と札束
あたしの肩を抱いた状態で電話を切ったマモル。
「……はぁ」
短くため息をつくと携帯をテーブルへ放り、座ったままあたしを抱きしめてきた。
あまりに驚いて、声すら出ない。
心拍だけは活発になった。
こいつの胸に耳が触れているため、Tシャツ越しにマモルの心音も聞こえる。
……速くは、ない。
10秒くらいそうしていると、あたしは急に冷静になった。
「どうしたんだよ」
低くそう聞くと、キュッと腕の力が強くなった。
「彼女を抱きしめたくなった」
頭上に聞こえる声は切なく詰まり、苦しそうだ。
「彼女って……偽装だろ」
「俺にこうされるの、イヤ?」
「別に、いやじゃないけど」
テレビの雑音とマモルの鼓動、息づかい、そして心地いい人の温もり。
あたしも軽く抱き返す。
ごくっと喉仏が動いたのを感じた次の瞬間、
「シンさん……」
マモルが無声音でそう呟いたのが聞こえた。