ゲイな彼と札束
数回ぽんぽんと膝を押さえて、足首からつーっと流れた血液を辿る。
異様な感覚にぶわっと鳥肌が立った。
すでに固まりかけていた血は、優しく辿るだけでは拭いきれない。
「触んなよ」
「でも、流れてる」
「いいんだよ、これくらい。何なんだよ、あんた」
他人に、しかもアザだらけでやたらガラと言葉遣いの悪いあたしに、ためらいなく言葉をかけてきた変な男。
見た目は爽やかな青年だが、正直、ここまでされると気持ち悪い。
このピンヒールで蹴り倒してやろうか。
「まだ出てるなぁ」
そろそろ店員たちがこちらを警戒し始めた。
チラチラ見てんじゃねーよ。
あたしはいたたまれなくなって、ひざまづく彼に礼も文句も言わずに店を出た。