ゲイな彼と札束
さっとTシャツとジーパンを身につけたマモル。
こいつが買い出し以外で出かけるなんて珍しい。
大学は夏休みだし、バイトみたいなこともやっていない。
彼女はあたしだし、友達とも遊ばないし、あまり社交的とはいえない。
「どこ行くの?」
「ちょっと、そこまで」
あたしには言えない場所らしい。
別にいいけど。
細かく干渉するつもりもないし。
不機嫌に「あっそ」と言うと、マモルは嬉しそうにニヤニヤし始めた。
「寂しいの?」
なんて言うもんだから、あたしは腹が立ってこいつの背中を思いっきり足の裏で押して寝室から追い出した。
「一生帰ってくんな!」
ドア越しにクスクス笑う声が聞こえる。
そこでようやく気がついた。
こんなの、図星付かれてムキになっているってバレバレじゃん。
あームカつく。
マジムカつく。
でも、マモルが楽しそうに笑うと、胸がキュンとする。
キモッ。
あたし、キモいぞ。
何が「きゅん」だよ。
キャラじゃないし、そんなキャピキャピした感情、処女を売ったときに捨ててしまったはずだ。
あんなやつ、全然タイプじゃないのに。
ゲイなのに。
しょっぱなから片思い確定なのに。
置いていかれると寂しいし、離れていると不安になる程度には好いている。
つまり、大好きなのだ。